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入り口は開いていて、中にはソファーとテーブル、そしてなんとテレビもあった。一目で見渡せる狭い小屋の中には人の姿はなかった。電源なんてあるはずのないその場所でテレビが映るのかどうかとても気になったけれど、確かめることはできなかった。ただ、入り口からその小屋を眺めるだけだった。
許可なく人のうちに上がり込むのは失礼だし、いつここの住人が帰ってくるかわからない。見つかったらいけない。なぜだか私たちの方がいけないことをしている気になっていた。なにより、あるはずのないものがここにある、そういう違和感が確かに感じられて、どきどきして怖かったのだ。
どのくらいそこにそうしていたのかわからない。多分短い間たったと思う。そして、そのまま私たちは帰ってしまった。
このことは、しばらく私と弟の間で大事件だった。興奮して周りの友達にも言ったけれど、結局本当には信じてもらえなかったはずだ。
なぜなら、あれから何度あの小屋を探しても、もう二度とそれは見つからなかったのである。
それから数年経ち、10歳の時に私は京都から大阪に引っ越した。
その大阪での生活にもすっかり慣れた高校生の頃、仲の良かった友達に会いに私は再び八幡市を訪れた。懐かしい小学校や住んでいたマンションを見た後、私は木津川の堤防に上った。
かつて私が遊んでいた河原に葦やすすきは跡形もなく、そこは高いフェンスで囲われ整地された広大な運動場になっていた。
私は久しぶりにちいさい頃に見た不思議な小屋のことを思い出した。 |
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すっかり見通しの良くなったその河原では、どんなに探そうと思っても、もう小屋は見つけようがなかった。
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