|
|
|
『河原の秘密基地』
ちいさい頃、川のほとりに住んでいた。すぐ下流の方で宇治川・桂川と合わさって淀川となるその川は、私の住んでいた京都府八幡市辺りでは木津川という名前のそこそこ大きな川だった。
我が家はこの木津川の堤防の脇にあった。堤防を越えると葦やすすきの生えた広い河原が広がり、さほど深くはなさそうに見える川のところどころには中洲があった。
私は弟や近所の子供達と、たびたびここを訪れてはかくれんぼをしたり、おにごっこをしたり、あるいは探検ごっこをしたりしていた。草は優にこどもの背丈より高く、私たちはかくれる場所には事欠かなかった。
河原にはよく妙なものが落ちていた。壊れたラジコンや、自転車、そして怪し気な雑誌。雑誌は必ずかぴかぴになっていて、容易にページはめくれなかった。まだほんの小さいこどもだった私たちには「秘密基地」を作るあたまなどなかったけれど、そこらは今にして思えば「秘密基地」のにおいがぷんぷんしていた。
たぶん、夢じゃなかったと思う。あまりにも昔の出来事にすぎて、記憶の手触りがどんどんあいまいになっていく。あれは夢じゃなかったよね、その時居合わせた弟とその後何度か話をした記憶もある。だから、夢じゃなかったと思う。
私はその河原で「秘密基地」を見た。
・・いや、「秘密基地」なのかどうか。こどもが作ったものではなかったと思う。
壁も屋根も入り口もきちんと作られた、小屋だった。
それまでそんなものを見たことは一度もなかったし、話に聞いたこともなかったけれど、とにかくいつものように河原で遊んでいた私と弟は、唐突にその小屋を見つけてしまったのだ。 |
|
|