キョリ。少ししてから届いた返事の冗談めかしたカタカナに、心がちくんとした。だけどもう会社が目の前だった。山積みの仕事を思うと、ちくんとした自分の気持ちのことは後回しにするしかなかった。
仕事を終えると午前一時だった。タクシーを降りると葉桜が風に揺れていた。時々吹く突風で折れたのか、葉付きの枝が落ちていた。恋人からのメールはまだなかった。
仕事のなごりで冴えたままの脳に深夜の生暖かい風がアルコールのようにしみ込んでくる。帰ったよとメールを打とうとして、止めた。迷惑かもしれないと思う理性は酔っていることにして、消した。
片手に折れた葉桜の枝を持ち、深夜に響くコールを聴く。電話がつながるまでのこの時間だけは、距離を感じずにいられた。
2002.5
初出「Quarterl Magazine Connect 006」
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