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『距離感』
携帯の電子音が短く鳴った。
遠距離になって半年近くの恋人からのメールだ。本を閉じ、時計を見る。午前二時。
−寝てると思うけど今帰ったよ。明日も早いからもう寝ます。お休み。−
外は嵐のように春の風が吹き荒れている。自転車の倒れる音がした。
もともとよく逢う二人ではなかった。お互いに仕事が忙しく、そのことを理解しあっていた。月に二回逢えるといい方。東京と大阪に離れた今もペースは変わっていない。
だから一体何のせいなのかわからない。私はいつの間にか恋人からその日最後のメールが来るまで眠れなくなっている。
今お休みと返事をしたら、恋人は驚き、起こしてごめんと申し訳なく思うのだろう。起きてたから気にしないでと言っても、困惑して私を心配し、自分を責めるのだろう。
だから私は返事をしない。いくばくかの安堵とともにようやくの眠りへと就く。
翌朝は快晴だった。今年は冬から暖かいせいか緑の萌えもいつもより早い。葉桜となった桜の樹を横目に私は恋人へメールを送る。
−おはよう。昨日も遅かったみたいだね。身体は大丈夫?こっちはとっても良い天気。葉桜を見ながら出勤です。−
−今の一山超えたらだいぶ楽になりそう。来週の週末はそっちに戻りたい。こっちはもう葉桜すら終わり、他の樹と桜の区別がつかない。ちょっとキョリを感じる。− |
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