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スケッチ
ノート

 別にほめられたくてやったわけではない。だから結果赤字の額が大幅に削減できるだろう提案が出来て、それが通って本当に良かったと思う。
 ただ、私は2年もの間「偉い人」ばかりで進んできたはずのプロジェクトチームが、ここまで市況が悪くなっているにも関わらず事なかれ主義で進んできたことに、心底失望した。ひいてはこの会社自体にも失望してしまった。
 この時に、私は会社を辞めようと最終決意したのだと思う。

 この時から約1ヶ月半。私は賃貸の営業部門に出向し、毎日新規開拓の飛込み営業を行っていた。30台半ば過ぎての夏場の飛込み営業は心身共に疲弊したが、意地もあり、毎日欠かさず5〜12社を訪問、名刺交換し日報をしたためていた。あと少し。あと少しだけだから、精一杯この会社のためにできることをしよう。その思いで最後の2ヶ月弱で私は130社超の新規営業資産を作り、リスト化した。
 時を前後し、会社は全社員の半分を対象に希望退職を実施すると発表し、全社員の面談が行われた。「希望退職します」と言おうと心に決めて面談の場に望んだ私は、自分の思いを話す間もなく会社から「あなたのポジションは用意できません」と言われて本当に驚いた。希望退職という名のもとに実質の首切りが行われるなんて今思えば甘いことに全く想定していなかったし、もしそういうことがあるにしても、これまでの自身の業績と査定評価から考えて切られる側とは考えられなかったからだ。
 辞めようと思ってはいても、会社の方から言われるとショックだし腹も立つ。気持ちが荒れ狂う期間が二週間ほど続いた。なんで、私が要らない側なの?ずっと異動せずにマーケティング部門の責任者をやっていたら、必要とされたの?

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でもこれからの会社に必要なのは、既得権に固執する人ではなく変化に対応できる人じゃないの?私はそういう風に仕事してきたつもりだった!!
質問してももちろん明確な答えが返ってくるわけでもなく、ひとつも納得いかなかった。本当に辛かった。
 全社員の面談が一通り終わり情報が行きかうと、事情は読めてきた。男性は45歳以上、女性35歳以上はほぼ全員デジタルに首切りを宣告されている。その中で特殊業務に携わる人だけがほんの一握り残されている。年齢がそれ以下の人たちはある程度所属部門や多少の実績の差で切られている。少数の一般職職群は全員切られた。逆に希望退職の権利がなく必ず会社に残れと言われた人も一握り。そしてそれ以外の人たちには選択権が与えられたようだった。それが第1段階。
 第2段階では4月入社の新人たちが全員首切りの対象となった。選択権のある人たちが想定以上に会社に残りたいと希望したためだった。
 私はもう「なぜ」と考えるのを止めた。私がマーケティング部門に居続けたとしても結果は同じだっただろう。所詮自分が考えたことではない。どこかで線を引かないといけないときに、決める人が自分の考えでこのように結論付けただけだ。私の思いとは関係ない。私が考える「一番いいやり方」と決めた人の意見が違っただけだ。もういい。私はもともと辞めようと思っていたのだから、自分の今後を前向きに突き進めばいい。そう割り切れた。この時期のこのやり方を完全に納得することは今後一生ないと思うけれど、ここまで思うのにも2週間掛かった。
 会社は荒れていた。辞める方の人々には、泣いている人もいたし、落ち込んでいる人もいたし、怒っている人もいた。残る方には、やはり泣いている人もいたし怒っている人もいたけれど、自分は選ばれた人間なのだと勘違いしたような言動に走る人もいた。
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