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『 2005年 新春エッセイ:「鶏」』
こどもの頃、私は鶏をほとんど食べたことがなかった。母が鶏を大嫌いだからだ。私の母は小さい頃に鶏の屍骸を見た時から食べるのはもちろん、見るのも触るのもダメなのだ。そういう訳で我が家の食卓に鶏肉料理が上ることはほとんどなく、私は周囲から同情されたり不憫に思われたりしながら育った。しかし鶏肉のない生活も自宅で食事をしていた高校生までで、その後外で食事をするようになると自然に鶏を口にする機会は増え、自ら鶏肉を買って料理することも今や日常になった。私の食卓から鶏を除くことはもはやあり得ないし、もしそうすることを強制されたら不幸だと思う。
けれども実のところ私は、こどもの頃鶏肉を食べたいと欲した覚えはないし、自分が不幸だと思ったこともなかった。鶏肉というものを良く知らなかったから、そのことについて考えることもなかったのだ。それを思うと、今当たり前に自分が鶏肉を食べて美味しいと思うことがとても貴重なことだと感じる。決して不幸ではなかったけれど、知らないことを疑問にも思わなかった時よりも、知って選べるようになった今の方が楽しい。
酉年2005年、改めて「新しいことを知る」。
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