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『白熱灯』
どうみても黄色いひかりでしかないのに、どうして白熱灯と言うのだろう。赤ワインのグラスの向こうに揺れる間接照明を見ながら私は考えていた。
蛍光灯は白いひかり。白熱灯は黄色いひかり。
白熱灯は蛍光灯と較べてより自然のひかりに近いんですよ。白熱灯の下ではお料理がより美しく見えます。
嘘。全部が見えないから落ち着かない。
私は、白熱灯がきらいだ。
一人暮らしを始めたとき、私は自分の弱い性格をよく考えた。
独りぼっちに耐えられないときが来たら、私はどうやって夜を過ごせば良いのだろう。
その解決策の一つが、間接照明だった。
部屋を暗くして、間接照明を灯し、お気に入りの音楽を流して、大好きなお酒を飲もう。そうするうちに心が落ち着いて私はゆっくり眠りに落ちるに違いない。
雑誌で見たそのまんまの浅はかさ。
淋しさが、そうした些細な心地よいものすべてを押し流してしまうくらいつよいものだと私は知らなかった。
秒を刻む時計の音が妙にくっきり聞こえ始めた。白熱灯を受けて静かに揺れる赤ワインが透明度を増してきた。
夜が深くなってくる。
私はじっと携帯電話を見つめた。
コールが2回以上続けば電話、1回半で切れたらメール。
どちらを望んでいるのか、自分自身ですらわからない。白熱灯の黄色いひかりがまるで同情するかのように私を包む。
私は苛立ちながらワインを空けた・・・。 |
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