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『レースのカーテン』
やわらかい陽射しがベッドの上に落ちてくる。薄いカーテン越し。薄曇りの午後。
ひかりが少し遠慮がちだから完璧な晴れではないとわかった。それでも本を読めるくらいに明るい今、太陽の位置は充分高いはずだった。
誰かに邪魔されることなく眠り続ける昼間。しあわせな、しあわせな休日の午後。
二年前、夫と住んでいた家を出て、一人暮らしを始めた。冷蔵庫も、洗濯機も、ベッドも何もかもなかった。生活必需品と呼ばれるものを揃えるだけで、ばかみたいにお金が消えていった。
狭いこの家のささいな取り柄はたくさん窓があることだけれど、窓にかけるカーテンだって決して安いものではなかった。とてもレースのカーテンまでは買えなかった。仕方なく生成りの薄いカーテンを一枚ずつ買って各窓にかけた。無印良品で買ったその生地は頼りなく、陽射しをちっとも遮らない。レールが一本余っていることも加えてなんとも心もとなかった、ひとりになった日。
お金が溜まったらレースのカーテンを買おう。きっと、冬になる前に。当時私はそう思ったはずだ。
けれど、私は未だにレースのカーテンを持っていない。
夫と住んでいた家では、なぜだか遮光カーテンを使っていた。レースのカーテンに重たいグレーの遮光カーテン。
最初から遮光カーテンにしようと決めていたのではなかった。なんとなくモノトーンのかっこいい家にしようと思っていて、そうしたらグレーのカーテンが目について、それはたまたま遮光カーテンだったけれど、別に良いんじゃない昼間いないし休日は遅くまで寝ていたいし。そんなところだったと思う。 |
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